※このブログで紹介しているメソッドは基本的に尾飛良幸オリジナルです。
こんにちは。尾飛良幸です。
支えて声が出せるようになれば、もう発声法の70%は終わっている、と私は思っていますが、それくらい「支え」は発声法で非常に重要です。
声帯を駆使して、いろいろな「声色」が出せることも、もちろん非常に重要です。
しかし、支えができてないと、大概の場合整体に障害が起きてしまいます。
若手シンガーでかっこよく歌えていた方が、20代後半から30代でポリープになってしまうのも、「支え」て声を出すことをせず、声帯に負担をかけたまま「声色」ばかりを変えてしまったからではないかと、私は思っています。
※下記記述で「最長筋」の記載がある部分ですが、さらに最下層部に多裂筋があり、それが横隔膜や腹横筋、骨盤底筋群と連動し、多裂筋が収縮すると、同時にそれらの筋肉も同時に収縮しているとの事を知りましたので、追記させていただきました(2021.1.28追記)
トレーナー視点から
さてこの「支え」ですが、トレーナーからすると、とにかく説明が難しい。
なので、「なんとなくこんな感じになる」「こんな感じしない?」などと「感じ」だけで解説してしまいがちになります。
私も約四半世紀歌を教えてきて、今ようやく「支えについての体の解説としては、これが良いかな」と思えるようになったので、それをここに【尾飛メソッド】として、まとめておきたいと思います。
これから書くことは、尾飛が自分なりに考えたものになります。
「支え」のイメージ
「支え」の話をする場合、非常に多くの「骨と筋肉」が関わっているので、極力一番大事なものだけに絞ってみたいと思います。
そこで、イメージを図にしてみました。
声を出す時に、体は様々な力が「拮抗した状態」であり、それを保ち続けることが必要となります。
そしてその「拮抗状態」こそが、「息を支えている状態」となり、それは息を吸う時に行うことになります。
主に力の支点になる部分は
・首の後ろ全体
・仙骨
・吸気力
の3箇所。
そしてそこに力を与えるのが
<背骨を支える>…背中側にある
・多裂筋(2021.1.28追記)
・最長筋
・大腰筋
<背骨を支える筋肉と拮抗する>…お腹側にある
・腹横筋
・腹直筋
<吸気する>…体の内側にある
・肋間筋
・横隔膜
となります。
これら筋肉は、どれ一つでも緩んでしまうと、支えの力が入らなくなります。
吹き出しに書いてある「セリフ」は、よく先生に言われる言葉ではありませんか?
生徒さんにとって、それらの言葉はそれぞれバラバラなことのように感じますが、実はこの一つの拮抗状態を作るための言葉なんですね。
最初は「全部意識するとパニック!!!」となりますが、慣れてくると「あ、この形のことだったんだ」とワンセットになる感覚になりますよ。
骨盤の固定化
姿勢を良くするには、上記の
・多裂筋(2021.1.28追記)
・最長筋
・大腰筋
<背骨を支える筋肉と拮抗する>…お腹側にある
・腹横筋
・腹直筋
を正しく使ってあげると良い姿勢になりますが、この「弓」を固定する土台が不安定では台無しです。
そこで要となるのが「骨盤」になります。
骨盤を固定させるために、今度は太ももの筋肉が登場します。
骨盤を下にひく筋肉ですね。
<前側>
・大腿直筋
<後側>
・大殿筋
・ハムスプリング
これらの筋肉を使うことで、例えばブランコが揺れないように上下からゴムで引っ張っているのと同じ状態を作っています。
そして、この太ももの筋肉の先が「ひざ」になりますね。
そうなると、今度は「ひざ」がグラグラしていてはいけない、ということになり、最終的には「ひざ下」から足の裏、さらには足の指先(特に小指が重要)まで意識して使うことが必要になります。
レッスンでよく「丹田を意識して」「丹田に力を入れて」という言葉も聞きます。 これは、これらの筋肉により骨盤が正しく固定され、同時に息をしっかり吸い、最長筋と多裂筋(2021.1.28追記)が働き仙骨にエネルギーが集まる事で、自然に「丹田を意識した状態」になりますね。
※2021.1.28追記
骨盤の一番底にはある筋肉群を「骨盤底筋群」と言います。
上記では「太ももの筋肉」を使う事で、骨盤が安定する、という書き方になっていますが、その後の学習していく中で、「骨盤底筋群」を働かせる事で、「太ももの筋肉」や「お腹周りの筋肉」「背中周りの筋肉」が動き出すことがわかりました。
意識としては、太ももの筋肉を意識することが「スタート」ではなく「骨盤底筋群」を意識して使うことがスタートだという事を、追記させていただきます。
吸気時の体
さて話を戻しましょう。
弓を引くためのすべての支点と筋肉が準備OKになったとします。
次に重要となるのが「吸気力」ですね。
どれだけ「弓」を良い状態にしても、吸気力が弱いと、弓の能力を最大限発揮できないのは、上記の図を見てもお分かりだと思います。
なので歌のレッスンでは「たくさん吸いましょう」と指導されますし、歌手が鍛えるべき筋肉は、息を吸い込むために必要な「横隔膜」と「肋間筋」なんですね。
筋トレだけしていても声が出るようにならないのは、これが理由ですね。
では「吸気」の時の体の動きを改めて図で見てみましょう。
順に書きます。
1:外肋間筋で肋骨を引き上げ、同時に横隔膜を下げて、息が肺に入ります(吸気)
2:『最長筋と大腰筋と多裂筋(2021.1.28追記)』が縮まり、背骨が短くなる(深呼吸をすると、のけ反る体制になるのはこのため)
3:のけぞらない為に、『腹直筋』で体を前側に引っ張ります。
4:『最長筋と大腰筋と多裂筋(2021.1.28追記)』の力と『腹直筋』の力が、首の後ろと仙骨で、拮抗状態になります
5:体幹が緩まないように『腹横筋』が働いています。
6:横隔膜が下がることで、内臓を上から圧迫し、内臓は前後左右に押し広げられます(お腹や脇腹が膨らみます)
7:押し広げられた内臓は、体幹を固定させている腹横筋と拮抗状態になります。
拮抗状態になっているのは、
・首の後ろ
・仙骨
・腹横筋周り
ですね。この拮抗状態を保ったままにしておくこと、これが「支え」です。
感覚的には「横隔膜を下げ続けている状態」が「支え」ですね。
弓で例えるならば、弓矢をグッと引っ張り、その状態で耐えている。ということになります。
なんだか体全体が「ガチガチ」に固くなってしまいそうですよね。
でもやってみるとわかりますが、逆に体の力は抜けます。
特に、おへそから上の上半身と、喉は、かなりリラックスされますよ。
もし、その辺りに力みを感じるようでしたら、それはどこかが正しくできてないと思って良いと思います。
呼気時の体
では息を吐くとどうなるでしょうか?
ここでは、声は出してない状態の説明です。
息を吐くと、当然横隔膜は上に上がりますね。
同時に背中側にある最長筋と多裂筋(2021.1.28追記)は緩み、背骨は長く伸びます。
ここで、肋骨まで下げると、腹横筋も緩んできて、全体に姿勢が崩れますので、それは要注意ですね。
肋骨を下げずに、高い位置に保つように気をつけると、呼吸はお腹が膨らんだり凹んだりするしか、方法がなくなります。
つまり、それが「腹式呼吸」ですね。
あくまでも腹式呼吸は「お腹を動かす呼吸」ではありません。結果的に「お腹が動く」呼吸です。
また、腹式呼吸でお腹に空気が入ることは、絶対にありません。
発声時の体
ここが一番説明が難しいです。まずは図をアップしますね。
まず大事なのは、吸気時に作られた「拮抗した状態」は決して無くさないようにして欲しい、ということです。
声を出すと口から空気がたくさん出る、と思っている方がいると思いますが、実際はそうではありません。
口の前に手をかざして「あ〜」と声を出してみると、うっすらとしか空気が出ないことがわかります。声は声帯という「扉」を閉じて「隙間風の原理」で出るようになってますから、肺側から声帯にどんなに強く空気を当てても、口からはほとんど空気が出ません。
ということは、息を吸った時の拮抗状態は、そのまま維持される、ということですね。
弓矢を引いた状態で、引いた腕をちょっと前後させている、そんな状態が歌っている時の体の状態です。
結構辛そうですよね。なので、呼吸のトレーニングが必要になる、ということなんです。 声を出すには、声帯に空気を送らないといけません。
そこで使う筋肉は「肋骨」の間にある「内肋間筋」
これは息を吸う時に使う「外肋間筋」の内側にあります。
「外肋間筋」で肋骨をあげつつ、「内肋間筋」で息を送る、という相反する動きが肋骨の骨の間で起こります。
ここも拮抗していますね。
よく「横隔膜を押し上げて息を送り出す」という話がありますが、あれは普段の呼吸の場合だと私は思っています。
歌の場合は、横隔膜は下げ続けておかないと、腹圧を高くキープできなくなってしまうので、よろしくありません。横隔膜が下がると、内臓は外に押し出されようとしますが、それを「腹横筋」で押し出されないように耐えます。ここでまた拮抗状態が起こり、腹圧が非常に高くなります。
ではなぜ、腹圧を高くし続ける方が良いのか。
それは発声に「バルサルバ法」を利用するからです。
バルサルバ法は、いわゆる「いきみ」です。
火事場の馬鹿力を出すときに使う、体の働きですね。
このバルサルバ法を使うことで
・強く安定した呼吸を、声帯に送ることができる
・喉に力を入れることなく、迷走神経を通じて自然と声帯が閉じるように指示が出される
という、声にはとても良い状態になります。
これにより、エッジボイスやしっかりした低音、ミックスボイス、ベルティングボイスでのハイトーンまで、喉周りに余計な力を使うことなく、自然に出せるようになります。
しかも、かなりしっかりした声です。
上半身に余計な力も入らないので、声を骨に共鳴させることも容易です。
さて、空気を送り出すために、内肋間筋により、例えるならば細長い風船を、よくから圧迫している状態になります。
そうすると当然風船は、上下(頭側とお尻側)に伸びますね。
その伸びる力と、縮めようとする背中側の「最長筋・多裂筋(2021.1.28追記)」と「大腰筋」との拮抗状態が、「吸気時」よりさらに強まります。
その拮抗状態の中心にいるのが「首の後ろ」と「仙骨」ですね。
発声時の拮抗状態が起こっている場所をまとめると
・「外肋間筋」と「内肋間筋」
・「内臓」と「腹横筋」
・「首の後ろ」と「仙骨」
ということですね。
この拮抗状態がより効率よく働くと、息がとても安定し、力強く、しかも体はリラックスしてとても楽な状態になり、結果声は非常に良い状態で発声されます。
呼吸の強さと声帯
「支え」がしっかりするだけで、声を安定させる呼吸が獲得できるのは、間違いないでしょう。
最後に一つだけ。
声帯は人それぞれ違います。
呼吸を強くすることは、声に良いことに違いないのですが、強い息ばかりを声帯にあてれば良いかというと、そうではありません。
声は「隙間風の原理」で鳴るようにできています。
空気が強いということは、声帯という扉に当たる風が、まるで台風のように「強風」ということです。
その場合、当然声量のある迫力ある声が出るでしょう。
でも、扉が吹き飛ぶほどの「爆風」では、元も子もありません。
喉に負担をかけないための呼吸法が、逆に喉を壊す原因になってしまいます。
呼吸力をつけることは、健康のためにも生涯の鍛錬だと私は思いますが、その手に入れた強い呼吸力を使い、自分の声帯に最も適した「程よい風」を送ってあげてみてください。
縦笛で例えるなら、しっかり吹ける力ももちろん必要ですが、むやみに強く吹いても良い音がしませんね。
「支え」における「拮抗状態」と同じように、声帯にあてる呼気もまた、程よい「拮抗状態」を作るようにすることが理想的ではないでしょうか。
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